Blog 2026/10/14

ベトナム人配偶者用レジデンスカード(TT記号)保持者は日系企業で就労可能か?

ベトナム人配偶者用レジデンスカード(TT記号)保持者は日系企業で就労可能か?

     ベトナムで事業を展開する日系企業(FDI)において、「コンプライアンス」と「リスク管理」は、社内の稟議プロセスや内部監査において決して妥協できない最重要原則です。

     昨今の採用現場では、ベトナム国民と結婚し、『ベトナム国民の配偶者』として発行されたレジデンスカード(記号:TT、以下『配偶者用TRC』)で滞在している外国人専門家を採用するケースが増加しています。このような人材を受け入れる際、企業は、以下の2つの重大なコンプライアンス上の課題に直面します。

  1. 1. 配偶者用TRCで就労することは違法ではないのか?公安当局から「入国・在留目的外活動」として摘発・処罰されるリスクはないのか?
  2. 2. 企業として、配偶者用TRCから就労用TRC(記号:LĐ1、LĐ2)への切り替えを強制すべきか?

     本稿では、ベトナム進出日系企業のビジネスパートナーとして実績豊富なソトチカの専門家チームが、2026年の最新法令に基づき、法的観点および企業ガバナンスの視点からこれら2つの問題を徹底的に分析・解説します。

💡【専門家からの重要視点:本稿における「TT記号」TRCの定義と適用範囲】

ベトナムの出入国管理法上、「TT(親族訪問・家族滞在)」記号のTRCは幅広い対象者に発行されます。主に以下の2つのケースが存在します。

  • ・ケースA:ベトナム国民の親・配偶者・子として発行される場合
  • ・ケースB:ベトナムで就労・投資する外国人(駐在員など)の帯同家族(配偶者や18歳未満の子)として発行される場合。

本稿では、労働許可証(WP)の免除対象となる「ケースA:ベトナム国民と結婚したことにより『ベトナム国民の配偶者』としてTT記号のTRCを取得した外国人」に特化して解説しており、これを『配偶者用TRC』と総称します。

※「ケースB(外国人駐在員の帯同家族)」としてTT記号のTRCを保持している者がベトナム国内で就労する場合は、原則としてWPの取得が必須となりますので、実務上混同しないようご注意ください。

配偶者用TRC保持者の就労は「目的外活動」に該当するのか?

【専門家の解釈】完全に合法であり、入国・在留目的外活動には該当しません。

     人事担当者が懸念を抱く背景には、「TTは『親族訪問・家族滞在』を意味する記号であり、これで就労すれば目的外活動として罰金や強制退去の対象になるのではないか」という論理的な推測があります。しかし、この考えは「出入国管理法」と「労働法」が交差する部分の法的本質を正確に捉えきれていません。

ベトナム国外への一時出国なしでビザ目的変更が認められる4つの例外ケース

  • 1. 配偶者用TRCの法的本質とは?

     出入国管理法上、配偶者用TRCの主たる発行目的は、ベトナム国民である配偶者との同居および家族の結合にあります。合法的な婚姻関係が維持され、実態として同居している限り、入国・在留目的は十分に満たされています。

  • 2. 2019年労働法第154条8項に基づく「付随する就労権」

     就労による収入獲得の事実が、家族結合という本来の目的を無効化することはありません。むしろ、2019年労働法第154条8項は、ベトナム国民と結婚した外国人を「WPの免除対象」として明確に規定しています。これは、該当者の家族に対する就労・収入獲得の権利を保護・促進するための国家的な人道政策です。

「目的外活動」として処罰されるのは、短期の観光ビザ(DL記号)や電子ビザ(E-visa)で入国し、本来の目的を逸脱して不法就労を行った場合です。配偶者用TRCに関しては、労働法によって就労権が合法化されるメカニズムが用意されています。

  • 3. 政令219/2025/NĐ-CP号に基づく「就労権発動の条件」

     配偶者用TRC保持者の就労が完全に合法となるためには、企業側がWP免除認定書の取得を要しない旨の「通知手続き」を、就労開始日の少なくとも3営業日前までに内務局などの管轄機関にて適正に実施する義務があります(政令219/2025/NĐ-CP号に基づく)。この通知手続きを怠った場合、企業は労務管理違反として行政処分の対象となります。

👉関連記事:【2026年最新】ベトナム労働許可証(WP)免除 完全ガイド:政令219/2025/NĐ-CP号対応

企業は配偶者用TRCから就労用TRC(記号:LĐ1、LĐ2)への切り替えを強制すべきか?

【専門家の解釈】全く強制する必要はありません。実務上、配偶者用TRCを維持する方が、企業にとってより最適なガバナンス戦略と言えます。

     ベトナムの法律には、雇用契約を締結する際に、有効な配偶者用TRCを失効させて就労用TRCへ切り替えることを義務付ける規定は存在しません。日系企業のガバナンスの観点からは、配偶者用TRCの維持には以下の戦略的メリットがあります。

ベトナムのビザ目的変更手続きの6つのステップと申請審査フロー

  • 1. メリット1:雇用企業の「滞在保証リスク」の回避

     配偶者用TRCの滞在資格は、ベトナム国民である配偶者(個人)が保証人となっています。そのため、仮に当該労働者が勤務時間外に法律違反を犯したり、突然退職したりした場合でも、企業が連帯責任を負って入国管理局へ説明に行ったり、複雑なTRC回収・取り消し手続きを行ったりする法的責任は一切発生しません。

  • 2. メリット2:滞在期間の最適化と行政コストの削減

     より長期の滞在期間:就労用TRC(LĐ1、LĐ2)は、WPやWP免除認定書の期限に合わせて最長2年間に制限されます。一方、配偶者用TRCは最長3年間有効であり、経営管理層などのポジションにおいても安定した雇用を維持しやすくなります。

     行政コストの100%削減:企業は、WP/WP免除認定書や就労用TRC(LĐ1、LĐ2)の申請・更新にかかる行政費用を負担する必要がなくなります。

国内での在留資格変更に関するルールと落とし穴(出入国管理法51/2019/QH14号)

     ベトナムの法律は、柔軟な運用を可能にするため、特定の例外的なケースにおいて、ベトナムを出国することなく国内で直接在留資格を変更することを認めています(出入国管理法51/2019/QH14号第7条4項)。人事担当者は、実務上発生し得る以下の2つのシナリオを正確に理解しておく必要があります。

👉関連記事:ベトナムのビザ目的変更|企業が確認すべき条件・必要書類・手続き

  • 1. シナリオ1:就労用TRCから配偶者用TRCへの在留資格変更(国内変更ルート)

     適用される例外規定(第2の例外):保証人となるベトナム人個人との間に、配偶者としての家族関係を証明する書類(結婚証明書など)がある場合。

     入国管理局の公式ガイドライン:現在、就労用TRC(LĐ1、LĐ2)で合法的に滞在・就労している外国人が、ベトナム国民と結婚した場合、出国することなくベトナム国内で配偶者用TRCへの切り替え申請が認められます(公安省決定書4946/QĐ-BCA-QLXNC号に基づく行政手続き)。

  • 2. シナリオ2:配偶者用TRCから就労用TRC(LĐ1、LĐ2)への在留資格変更(国内変更不可・原則出国ルート)

     多くの人事担当者が、「雇用企業が招聘・保証人となり、WP又はWP免除認定書を取得すれば、国内で直接配偶者用TRCから就労用TRC(LĐ1、LĐ2)に変更できる(第3の例外)」と誤解しています。しかし、これは法解釈の「落とし穴」です。

  • ・法的本質:「第3の例外(国内での就労資格への変更)」が適用されるのは、入国当初から雇用企業が招聘・保証人となっている外国人(例:商用ビザ(DN1、DN2)などで入国した者)に限られます。配偶者用TRCの場合、当初の保証人は「ベトナム国民の配偶者」であるため、国内で直接「雇用会社)」が保証人となる就労資格へ変更するための要件を満たしていません。
  • ・正規のプロセス:もし離婚等により配偶者用TRCが失効し、企業が新たに就労資格のスポンサーとなる場合、その外国人は必ず一度ベトナムを出国しなければなりません。その後、就労目的での「ベトナム入国招聘状」やE-visaを取得してベトナムに再度入国し、改めて就労用TRCの新規取得手続きを行う必要があります。

在ベトナム日系企業の皆さまへ

     以上を踏まえ、日系企業は、「入国・在留目的外活動」という法令違反リスクを恐れることなく、配偶者用TRCを保有する外国人材を安心して採用し、就労させることができます。また、ベトナム国内において、企業側から就労用TRC(記号:LĐ1、LĐ2)への切り替えを強制する必要はなく、現状の在留資格(配偶者用TRC)を維持することが、コンプライアンスおよびコスト管理の観点から最も合理的と言えます。

本記事の情報は執筆時点の法令に基づいています。ベトナムの労務法令・手続きは変更が頻繁に発生するため、実務対応の前に必ず最新情報および管轄当局の最新解釈をご確認ください。

よくある質問

Q1: 現在就労用TRC(LĐ1/LĐ2)で 就労している外国人社員がベトナム国民と結婚した場合、出国せずに国内で配偶者用TRCへ変更できますか??

     はい、ベトナム国内で直接変更可能です。出入国管理法51/2019/QH14号第7条4項の「第2の例外(ベトナム国民の配偶者等である証明書類がある場合)」が適用されます。公安省決定書4946/QĐ-BCA-QLXNC号の行政手続きに基づき、出国することなくベトナム国内で配偶者用TRCへの変更が認められています。

Q2: 離婚等により配偶者用TRCが失効した場合、ベトナム国内で直接就労用TRCへ切り替えることは可能ですか?

     不可です(原則として一度ベトナムを出国する必要があります)。出入国管理法51/2019/QH14号第7条4項の「第3の例外(国内変更)」は、入国当初から受け入れ企業が保証人となっている場合(DNビザ等)にのみ適用されます。配偶者用TRCの当初保証人は「個人」であるため、国内で直接企業保証の就労用TRCへ変更することはできません。一度ベトナムを出国し、企業保証の「入国招聘状」を取得して再入国する必要があります。

Q3: 企業から配偶者用TRC保持者に対して、就労用TRC(LĐ1、LĐ2)への切り替えを要求すべきですか?

     全く強制する必要はありません。配偶者用TRCを維持する方がガバナンス上最適です。配偶者用TRCを維持することで、①保証人がベトナム人配偶者(個人)となるため企業の連帯保証リスク(退職時のTRC回収・説明義務等)を回避できる、②最長3年の長期滞在が可能、③行政申請費用を削減できる、という戦略的メリットが得られます。

Q4: WPが免除されている配偶者用TRC保持者は、強制社会保険の加入も免除されますか?

     いいえ、WPの免除と社会保険の免除は連動しませんので注意が必要です。2024年改正社会保険法(2025年7月1日施行)第2条2項b号に基づき、WPが免除されている者であっても、期間12ヶ月以上の有期労働契約を締結する場合は、原則として強制社会保険への加入義務が発生します。

Q5: 雇用契約の途中で配偶者用TRCの期限が切れ、更新手続きが遅延した場合、企業は当該社員の就労を継続させることができますか?

     いいえ、TRCが切れた状態で就労させることは不法就労リスクとなります。2019年労働法第151条2項に基づき、外国人労働者の雇用条件は「有効な滞在資格(ビザ/TRC)」を有していることが前提です。TRCの更新完了(または更新受領票の取得)までの間、企業は一時的に休職扱いとするか、無給休暇とするなどのリスク回避措置を講じる必要があります。

Q6: 配偶者用TRCを保持する外国人が、複数の日系企業で同時に就労(パートタイム・顧問等)することは可能ですか?その際の手続きはどうなりますか?

     はい、完全合法で複数企業での就労が可能です。一般的な外国人労働者は、雇用企業ごとに個別のWPを取得する必要がありますが、配偶者用TRC保持者はWP自体が免除されています。ただし、雇用契約を結ぶすべての企業が、各自で就労開始3営業日前までに内務局などの管轄機関にてWP免除認定書の取得を要しない旨の「通知手続き」を個別に実施する義務があります(政令219/2025/NĐ-CP号に基づく)。

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