ベトナムの工業団地事情 (第5回) ワーカー派遣システム
第5回 ワーカー派遣システム
ベトナム進出を成功させるには、現地での人材の確保が重要となってくる。しかし日本にいては、なかなか現地の派遣社員に関する情報を得ることが難しい。本稿ではベトナムでの派遣社員事情を紹介していきたい。
1.派遣で募集を行っている業種
以前は経理や人事などのオフィスワークを派遣社員が担うことが多かったが、現在は正社員に取って代わられた。この背景にはベトナムにおいて大卒の人数が増えたという現状がある。大卒の資格を持っているのであれば、もっといい肩書きを手に入れたいという意識が派遣社員事情を大幅に変化させた。派遣社員の人々は現在主に製造業で活躍しているワーカーが多い。但し、製造業に派遣されるワーカーは、特にスキルを必要としない単純作業の業種に限られる。また。スーパーなどに陳列している調味料のメーカーは、年に3回程度プロモーションを行う時期があり、その際には調味料におまけがついたり2本セットで売り出したりすることがある。この作業をプロモーション前の約3か月間行うために派遣社員の人々があてがわれている。経験がない人でも出来るような内容の作業となっている。
2.派遣人数
企業の規模にもよるが、ワーカーの場合は毎月数十人程度である。夏休みの7,8月には授業のない大学生が多く参加することによって派遣社員の枠をとられてしまう。
派遣社員の人々が辞めないように企業側も努力をする必要があり、実際に対策を行ったことで辞める人数が減ったという事例も存在する。例としてはトイレをきれいにする、冷房をきかせる、100日間仕事が続いた人にはボーナスを付与するなどといったものだ。数時間の立ち仕事ということに加え、汚く、暑い環境だと施設の整ったほかの工場へ移ってしまうことが実際にある。
3.派遣社員の募集方法
主に3つの手段がある。
・求人サイト
日本と同じようにベトナムでも求人サイトに登録を行っている。
・SNS
Facebookが主流である。Facebookに求人の投稿がアップされると働きたい人々からメッセージが送られてくる。最近ではTikTokも求人の手段として使われている。ベトナムではTikTokがビジネスの機会に使われることも多く、若い社員がいればTikTokでの求人を任せることもある。
・現地のブローカー
現地のブローカーがSNSや自社サイトを駆使して人材を集めてくれる。
4.採用基準
試用期間がある企業も存在する。体力的についていけないといった理由で初日に辞める人も一定数存在する。また、募集要項の年齢条件に沿っていない人が面接に来ることもあり、健康状態などを考慮した上で企業が納得できるのであれば採用するといった事例もみられる。
5.料金体系
オフィスワーカーの場合、企業側は月収の20~30%程度を派遣手数料として派遣会社に支払う。しかし工場で働く人の場合は、派遣会社に毎月ではなく1日〇〇ドンといったような形で支払われる。警備員の場合だとさらに安くなる。長さは会社によって異なるが保証期間が決められており、その期間内にワーカーが辞めてしまった場合は他のワーカーが代わりに作業に入るということがある。
6.派遣社員と正社員の比較
ベトナムでは労働法によって派遣社員と正社員の間で諸手当や福利厚生に差をつけてはいけないと定められている。また、派遣社員と正社員が同一レベルの業務を行っているのであれば給料も同等、あるいは下回る額になってはいけない。そのため派遣社員の方が給与が高くなる場合がある。派遣社員の方が高くなったとしてもいつでも辞めさせることができるが、正社員は1度雇うと辞めさせられないという事情が背景には存在している。
前述のように、採用期間には大きな違いがある。正社員として採用された場合には、仕事ができなくても基本的に直ちに辞めさせることはできない。一方で派遣社員は最長でも1年しか働くことができない。1年経った後は契約を切るか、もしくは正社員にするなど何かしらの手続きをとらなければならない。派遣社員から正社員に変更する場合には、月給の1~2か月分ほどを手数料として企業側が派遣会社に支払う必要がある。
派遣社員でも対応できる業種は単純作業に限られるので、人が代わっても頭数だけ揃えればよいような仕事には対応できるが、ある程度の技術習得が必要な業種では、正社員として採用し技術指導するのが一般的である。
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